ハッピーバースデイ3.11

はじめに

宮城県南三陸町に、2011年3月11日、震災のちょうどその日に産まれた赤ちゃんがいると知り、8月に訪れました。南三陸の避難所のすぐ近くに位置するその家の居間には、「2011年3月11日 命名 春晴」と書かれた真新しい紙が貼られていて、その文字は、震災の悲しみに沈む、私たち日本人にとって、まるで希望の象徴かのように見えました。

多くの命が失われたその日、被災地では、それでも新たな命が産まれていました。その命に「生まれてきてくれてありがとう」の気持ちを込めて。そして、その子たちが、これからハッピーなバースデイを迎えられるように。小さな瞳にうつる未来を思いながら、日本の明日を考える、このプロジェクトが、そんなきっかけになることを願っています。

最後に、プロジェクトの趣旨に賛同し、撮影と取材を快く引き受けてくださったお子様のご家族のみなさまに深く感謝いたします。

ハッピーバースデイ3.11スタッフ一同

3月11日に被災地で生まれた子どもたちと家族のポートレイトです。とても撮りたい存在でした。過去をいっさい持たない子どもほど、未来を強く感じさせるものはないからです。私はその小さな姿に、希望を託す気持ちでカメラを向けました。穏やかな姿がそこにはありました。あの日生まれたことにより家族が津波に遭わないですんだり、生まれたことを「こんなときに不謹慎だから」とずっと言えないでいたお母さんもいました。それぞれが違った、ときに壮絶な「そのとき」を経験していました。語り出した多くのお母さんの頬を、涙が自然と流れていきました。そんなとき、私はいまさらながら命の尊さを感じるのでした。同時に産んだお母さんを含めた、家族の物語でもあることに気がつきました。

写真を撮りながら、私はずっと考えていました。私たち大人は、何も知らぬ彼らの瞳に何を映してあげられるのか、あげなくてはならないのかについて。

小林紀晴